いつかこの曲が弾きたい。 そう思ったあの頃がまた帰ってきた気がする。 私の学校に教育実習の教師が来た。 彼らはこの学校の卒業生らしい。 全校朝礼が終わり、その教育実習の教師たちは それぞれのクラスの副担任として2週間お世話になるのだった。 何日か経って私の学年は全体で歌の授業をした。 そのとき、音楽の先生から教育実習の彼らの中の一人に ピアノの達人がこの中に居ると突然発表があった。 それはこの先生です!と指名されたとき一瞬目を疑った。 全然かっこよくないし、ピアノが弾けるなんて到底思えなかった。 しかも友達の話によるとその教師は他の教師に怒られていたらしい。 「すみません、すみません。次は頑張ります」と何度も頭を下げて。 ピアノの場所に行く時さえ、お世辞でもカッコいいとは言えない姿。 大丈夫かよと思った矢先だった。 激しいリズムで流れるような旋律。 私は目が釘付けになった。 ちなみにこのページで流れている曲。 ラフマニノフの楽興の時作品16の4だ。 さっきまでヘコヘコして何も出来ないような顔をしていた彼はどこかへ。 とても真剣で輝いて見えた。 中学に入るまでピアノを習っていた私はまたピアノの存在に強く憧れた。 あの頃に戻ったような気がして そして彼に凄く憧れた。 私もまたピアノを弾きたい。 この曲を弾いてみたい。 だから人って分からない。さっきまで弱い人間だったのに ひとつ何かが加われば最強になったりするのだから。 少なからず、最強になれなくても人の上に立つことは出来る。 だから私も自分が人より強くなれるものを 少し探してみようかなと思った。